採用難が続く中、社員の紹介で人材を獲得する「リファラル採用」への注目が高まっています。
求人媒体や人材紹介会社を使わずに自社にマッチした候補者へアプローチできる点が評価されいて、国内でも導入企業は年々増えている採用方法です。
しかし制度設計を進めようとすると、「報酬はいくらに設定すればよいのか」「そもそも報酬を払うことは法律上問題ないのか」と悩む担当者は少なくありません。
この記事では、報酬相場から法律上の注意点、目的別の決め方、規程の作り方、さらに新卒採用特有の注意点までを体系的に解説します。
リファラル採用とは?

報酬設計を考える前提として、まずはリファラル採用の本質と他の採用手法との違いを押さえておく必要があります。
制度の目的を正しく理解することが、適切な報酬設計への第一歩です。
リファラル採用の特徴
リファラル(referral)とは「紹介・推薦」を意味する英語です。
自社の従業員が知人・友人を会社に紹介し、選考を経て採用につなげる手法で、紹介者は自社の企業文化を理解したうえで候補者を推薦するためミスマッチが起こりにくく、定着率が高い傾向があります。
2024年の調査では国内企業の60%超が実施しており、5年間で約20ポイント増加しています。
他の採用手法との違い
求人広告は1枠あたり20万〜100万円程度のコストが発生し、人材紹介会社は理論年収の25〜35%という成功報酬が相場です。
リファラル採用はこれらと比べてコストが低く抑えられるうえ、転職潜在層にもアプローチできる点が大きな違いとなります。
リファラル採用のメリット・デメリット

リファラル採用を本格的に導入する前に、メリットとデメリットの両面を把握しておくことが重要です。
期待値を正しくコントロールすることが、制度を長続きさせる条件となります。
メリット
リファラル採用は求人広告費用や求人サービス利用料がかからないため、採用コストを大幅に削減できる点がまず挙げられます。
また、社風を理解した社員が候補者を選ぶためマッチング精度が高く、早期離職率が低い傾向にあるのも特徴です。
知人からの紹介として話を持ち掛けることができるため、いわゆる「引き抜き」のように、求人サイトに登録していない、優秀で安定的に働いている潜在転職層にアプローチすることもできます。
デメリット
最も大きなデメリットは、候補者が不採用になった場合や早期退職した場合です。
紹介者と候補者の関係が悪化する可能性もありますし、候補者のふるまいによっては、紹介者が会社の中で居心地の悪い思いをしてしまう可能性もあります。
また、知人を紹介していくシステムのため、特定属性の人材が集まりやすく組織に偏りが生まれる可能性が高くなります。
計画採用には向いていないため、あくまで採用手段の一つとして位置づけることが前提です。
リファラル採用の報酬相場

担当者がもっとも気になるのが具体的な報酬額の水準です。
相場感を把握したうえで、自社の採用課題や予算に合わせた設定が求められます。
金銭報酬の相場帯
リファラル採用に報酬を出す場合、最も5万円~30万円の間が相場です。
具体的な分布としては、Myseriesの調査によると、金銭報酬を設定している企業の中では1〜9万円の範囲が最多で約46.9%を占め、次いで10〜29万円が31.3%、30万円以上が6.8%程度となっています。
金額帯の中では10〜15万円に設定する企業が多い傾向にあります。
支給タイミングは「入社時」「試用期間終了後」「入社後半年経過後」など企業によってさまざまです。
報酬を支給しない企業も一定数ある理由
全体の約66%は金銭報酬を設定していないか、非金銭型を採用しています。
調査によると77%のリファラルは「知人から相談された」という受動的なきっかけで発生しており、報酬目的で能動的に動く社員は全体の1割程度にすぎません。
報酬制度はあくまで「社内浸透のきっかけ」として位置づけるのが効果的です。
現金以外の報酬パターン
リファラル採用の報酬として、現金以外の報酬を出している企業もあります。
非金銭型の報酬には、ギフト券や体験型チケットなどの商品ボーナス、特別休暇の付与、人事評価への反映、年間の紹介貢献度に応じたランキング表彰などがあります。
リファラル採用に報酬を出すのか、出すとすればどのような形で反映するのかは自由です。
自社のカルチャーに合った形で設計するようにしましょう。
リファラル採用の報酬は違法になる?法律の基本を押さえる
-2-1024x538.png)
報酬制度を設計するうえで、法律の理解は避けて通れません。
正しく理解しないまま運用すると、違法と見なされるリスクが生じます。
関連する法令を整理し、合法的に運用するための要件を確認しましょう。
職業安定法第30条・第40条とは
職業安定法第30条は、有料の職業紹介事業には厚生労働大臣の許可が必要と定めています。
第40条は、労働者の募集に従事する被用者への報酬供与を原則禁止しています。
つまり、社員が採用紹介の対価として金銭を受け取ることは、そのままでは違法になりうるのです。
賃金・給与として支給しなければならない理由
ただし第40条には例外規定があり、「賃金・給料その他これらに準ずるもの」として支払う場合は認められています。
そのためリファラル採用の報酬は「紹介謝礼」として手渡すのではなく、給与・賞与・手当として賃金処理することが必要です。
就業規則への明記が必要な理由
労働基準法第11条では賃金を「名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義し、第15条では労働条件の明示を義務づけています。
報酬の内容・金額・支給条件を就業規則や賃金規程に明記することが法的要件です。
報酬に上限はある?違法とみなされないラインの考え方
法律上、明確な上限は定められていません。
しかし報酬が高額になるほど有料職業紹介事業と見なされるリスクが高まります。
人材紹介会社の成功報酬である理論年収の25〜35%を下回る水準に設定することが一般的な目安です。
報酬と税金・社会保険の関係
リファラル採用の報酬を賃金として支給する場合、所得税の課税対象となり源泉徴収が必要です。
社会保険料の算定基礎にも含まれ、ギフト券などの現物支給でも原則として課税対象となります。
税務・社労士の専門家に確認のうえ適切な処理方法を整備しておくことが望ましいです。
リファラル採用の報酬の決め方

報酬設計は「いくら払うか」だけでなく、「何のために設計するか」という目的から逆算することが重要です。
場合によって最適な報酬の形は変わります。
ここでは、自社の状況に合わせたりリファラル採用の報酬の決め方を解説していきます。
紹介数を増やしたい場合
「採用決定時」ではなく「応募・面談実施時」に報酬を支給するのが一般的です。
この場合、紹介のハードルを下げることで社員が動きやすくなるというメリットがあります。
報酬目的の質の低い紹介が増えるリスクもあるため、1人の社員が紹介できる人数に上限を設けるルール整備も必要です。
スキルの高い人材を採りたい場合
採用難度の高い職種や特定の資格保有者には、他の紹介よりも報酬額を高めに設定してみましょう。
ポジションや要件に応じた差額設定により、社員の紹介先の優先度を自然と変えることができます。
早期離職を防ぎたい場合
報酬の支給タイミングを「試用期間終了後(入社3〜6ヶ月後)」に設定することで、紹介者は定着を意識した紹介をするようになります。
候補者への情報提供も丁寧になり、入社後のミスマッチ防止につなげられます。
リファラル採用の報酬規程の作り方

適切な報酬額を設定しても、規程として整備されていなければ法的リスクが残ります。
社員への制度周知のためにも、規程の明文化は欠かせません。
まず、報酬規程には、必ず、対象者(役職による除外範囲)、報酬額または算定基準、支給のトリガーとなる条件(応募・面談・内定・入社・試用期間終了など)、支給時期と支給方法を記載しておきましょう。
紹介が不採用となった場合や早期退職した場合の扱いも明記しておくとトラブル予防につながります。
そして、以下4点をチェックし、違法とされないように気をつけてください。
- 就業規則または賃金規程に報酬条件が明記されているか
- 報酬が賃金として処理されており現金手渡しなど違法になりうる支給形態を取っていないか、
- 税務・社会保険の処理が適切か
- 社員への周知がなされているか
リファラル採用を成功させる運用のポイント

報酬制度を整えるだけでは、リファラル採用は自走しません。
社内の運用体制を並行して整えることが採用成果に直結します。
社内告知と制度浸透の方法
導入の背景・目的・報酬条件を丁寧に説明し、「なぜ取り組むのか」を伝えることが社員の当事者意識を育てます。
告知は一度きりで終わらせず、採用状況を定期的に共有するなど継続的な働きかけを行いましょう。
不採用時・早期離職時のフォロー体制
紹介した候補者が不採用になるケースや早期退職するケースは必ず発生します。
紹介者が「損をした」と感じないよう、不採用の理由を丁寧に伝え、双方に誠実なフォローを行う体制を整えておくことが大切です。
報酬だけに頼らない設計思想
リファラル採用の成否を決めるのは報酬額ではありません。
社員が「この会社なら自信を持って友人に勧められる」と思える職場環境があってこそ制度は機能します。
エンゲージメントを高める取り組みと報酬制度を組み合わせることが、持続可能なリファラル採用の基盤です。
リファラル採用の報酬についてよくある質問(FAQ)

リファラル採用の報酬設計に関して、担当者からよく寄せられる疑問をまとめました。
制度設計の最終確認としてお役立てください。
Q. リファラル採用の報酬に上限はありますか?
法律上、明確な上限は定められていません。
ただし人材紹介会社の成功報酬(理論年収の25〜35%)を下回る水準が目安とされており、高額すぎる設定は有料職業紹介と見なされるリスクがあります。
Q. 報酬を現金で手渡しすると違法ですか?
「紹介報酬」として現金を直接手渡す行為は職業安定法第40条に違反する可能性があります。
給与・賞与・手当として賃金処理し、就業規則に明記したうえで支給することが必要です。
Q. 就業規則がない場合でもリファラル採用はできますか?
報酬を賃金として支払うためには規程への明記が法的要件となります。
就業規則が未整備な場合はまず整備を優先することが望ましいです。
Q. 新卒採用でもリファラル採用は使えますか?
活用は可能ですが、内定者・アルバイトへの報酬支払いリスクなど中途採用とは異なる法的論点があります。
紹介者の雇用形態を確認のうえ、法務・社労士へ相談することを推奨します。
Q. 報酬なしでもリファラル採用は機能しますか?
機能します。
全体の約66%の企業は金銭報酬を設定していないか非金銭型を採用しており、表彰・称賛・評価制度でも十分な効果が出るケースは多くあります。
まとめ

リファラル採用の報酬設計は、「相場の把握」「法律への対応」「目的別の設計」「規程の整備」という4つの観点から体系的に考えることが必要です。
報酬額は1〜9万円の設定が最多ですが、自社の採用課題に応じた柔軟な設定が求められます。
報酬制度だけでリファラルが活性化するわけではありません。社員が自信を持って友人に紹介できる職場環境の整備と、継続的な社内コミュニケーションが、制度を機能させる本質的な条件です。
特に新卒採用においては、学生目線のコンテンツ設計・内定者フォロー・インターン運営が採用成果を左右します。自社だけで抱え込まず、採用のプロと一緒に取り組むことも選択肢の一つです。