建設業における人材紹介が禁止されているのはなぜなのか、明確に説明できる人は意外と多くありません。
「建設業は人材紹介を使ってはいけない」と聞いたことはあっても、どこまでがNGで、どこからが合法なのかは曖昧なままになりがちです。
本記事では、法律上の考え方を噛み砕きながら、禁止されている業務範囲、例外的に認められるケース、違反リスク、そして企業が取るべき現実的な採用手段までを整理します。
建設業で人材紹介が「禁止」とされるのはなぜか

建設業では、人材紹介が原則として制限されている業務があります。その背景には、職業安定法における有料職業紹介制度の考え方と、建設業特有の構造的な課題が関係しています。
まずは、なぜ「禁止」と言われるのかを制度面から整理します。
有料職業紹介制度の基本的な考え方
有料職業紹介は、職業安定法に基づき、一定の許可を受けた事業者のみが行える仕組みです。
ただし、すべての職種・業務が対象になるわけではありません。
特定の業務については「職業紹介そのものが禁止されている」と明示されており、建設業務はその代表例として扱われています。(JAC)
これは、労働者保護や雇用秩序の維持を目的とした制度設計によるものです。
建設業務が禁止とされている背景
建設業では、現場ごとに元請・下請・孫請といった重層的な下請け構造が形成されやすく、「誰が労働者を雇用し、誰が指揮命令を行っているのか」が不明確になりやすいという構造的な課題があります。
このような状況を踏まえ、建設労働者の雇用については、建設労働者の雇用の改善等に関する法律に基づき、雇用する者と指揮命令する者が一致する「請負」を原則とした形で、雇用関係を明確化することが重視されてきました。
その結果、建設業における人材確保については、人材紹介の仕組みに委ねるよりも、法令に基づいた雇用管理の近代化や雇用改善措置によって対応する方が適切とされており、これが建設業務において有料職業紹介が原則として認められていない背景となっています。
「安全性・多重下請け構造」との関係
安全管理上の配慮も禁止の背景の一つとされています。
建設現場では、安全管理が極めて重要です。
現場作業に従事する人材が短期間で入れ替わる状況は、安全教育や責任体制の面で問題が生じやすいため、現場で直接作業を行う建設業務については、有料職業紹介を通じた人材供給が原則禁止とされてきました。
「建設業の人材紹介=すべて禁止」ではない

一方で、建設業に関わるすべての人材紹介が禁止されているわけではありません。
制度上の線引きは、業界ではなく「どの業務に従事するか」にあります。
禁止されているのは「現場で直接作業する業務」
禁止対象となるのは「建設工事の現場で直接作業に従事する業務」です。
つまり、建設業界に属していても、現場作業に該当しない業務については、有料職業紹介の対象から一律に除外されるわけではありません。
職種ではなく「業務内容」で判断される
重要なのは、職種名ではなく実際の業務内容です。
たとえば同じ「技術職」であっても、現場での施工そのものを担うか、管理・計画を行うかで扱いが異なります。(令和5年4月厚生労働省職業安定局「職業紹介事業の業務運営要領」13ページ)
この点を誤解すると、意図せず法令違反と判断される可能性があるため注意が必要です。
例外的に認められている人材紹介団体

国の関与のもとで認定されている団体は限られており、一般の民間人材紹介会社が自由に参入できる領域ではありません。
建設業務が原則禁止とされる中でも、一定の条件を満たす団体については、別制度として、または例外的に人材紹介が認められています。
人材紹介が可能な建設業の職種・業務とは

では、どのような業務であれば人材紹介が可能と判断されるのでしょうか。
人材紹介が可能な範囲
建設業において人材紹介が可能と判断されるのは、現場で直接建設作業を行わない業務に限られます。
有料職業紹介が問題となるのは「建設工事の現場において労務を提供する業務」であり、管理・調整・企画といった間接業務はこれに該当しないとされています。
具体的には、施工管理や工事管理のように、工程管理・品質管理・安全管理などを担う業務は、作業員として建設作業に従事するものではありません。そのため、労務の提供ではなくマネジメントを目的とした業務として、人材紹介の対象になり得るとされています。
同様に、事務職や設計、施工計画といった業務も、建設工事そのものを行う立場ではないため、原則として有料職業紹介の禁止対象には含まれません。
人材紹介が可能でない範囲
一方で、人材紹介が認められないのは、建設工事の現場で直接作業を行う業務です。
禁止の判断は職種名ではなく、実際に行う業務内容が「現場での建設作業」に該当するかどうかで行われます。
そのため、名目上は施工管理や補助業務、事務業務として採用していたとしても、実態として現場に入り、建設作業に従事している場合には、有料職業紹介の対象外と判断される可能性があります。
このように、紹介の可否は「肩書き」ではなく「業務の実態」で判断される点が重要であり、現場作業と一体化している業務については、人材紹介を利用できないリスクがあることを理解しておく必要があります。
法律違反と判断されるポイントは?企業側が知っておくべきリスク
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制度を誤解したまま採用を進めると、意図せず法令違反と判断されることがあります。
法律違反と判断されるポイント
ポイントは、紹介された人材が実際にどの業務を行っているかです。
求人票や契約書上は管理業務であっても、現場で直接作業をしていれば問題となる可能性があります。
罰則よりも問題になりやすい実務上のトラブル
実は、罰則そのものよりも、行政指導や取引先からの信用低下といった実務上の影響が大きく、トラブルになりやすいとされています。
結果として、採用活動そのものが停滞するリスクがあります。
建設業で人材を採用するための現実的な選択肢

人材紹介が制度上使いにくい建設業では、特定の手法に依存せず、複数の採用手段を組み合わせて人材確保を行うケースが一般的です。
業務内容や採用したい人材像によって、選択すべき手法は大きく異なるため、制度を理解したうえで現実的な選択を行うことが求められます。
人材紹介以外に使われている採用手法
建設業では現在も、直接採用や求人媒体を通じた募集、取引先や従業員からの紹介といった縁故採用が主流となっています。
これらの手法は、人材紹介のような制度上の制限を受けにくく、現場作業に従事する人材であっても採用が可能である点が特徴です。
一方で、採用活動の工数がかかりやすい、母集団形成に時間がかかるといった課題もあるため、採用したい業務内容や緊急度に応じて、適切に使い分ける必要があります。
人材派遣・請負との違いと注意点
人材派遣や請負といった手法も、建設業では活用されていますが、これらも無制限に使えるわけではありません。
特に注意すべきなのは、人材紹介と同様に、「誰が労働者に指揮命令を行うのか」「どのような業務を担うのか」という点です。
派遣の場合は派遣元と派遣先の役割が明確に分かれ、請負では請負事業者が指揮命令を行う必要があります。
実態として指揮命令関係が曖昧になると、制度違反やトラブルにつながるリスクがあるため、契約内容だけでなく、日々の業務運用まで含めて慎重に判断することが求められます。
自社の採用目的に合った手段を選ぶ
採用手法を選ぶ際には、まず採用したい人材がどのような業務を担うのかを整理することが不可欠です。
現場作業を担うのか、管理・調整を中心とした業務なのかによって、選択できる手段は大きく変わります。
人材紹介が使えないからといって選択肢が極端に狭まるわけではありません。
採用戦略全体を見直し、複数の手法を組み合わせることで、自社に合った人材確保の可能性を広げることができます。
建設業で人材紹介を使う前に確認すべきチェックポイント
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最後に、建設業で人材紹介を検討する際に、実務上必ず確認しておきたいポイントを整理します。
これらを事前に押さえておくことで、制度違反や後々のトラブルを避けやすくなります。
採用したい人材は「現場作業」に該当しないか
まず確認すべきなのは、採用予定の人材が担う業務が、建設工事の現場での直接作業に該当しないかどうかです。
業務内容が現場作業に該当する場合、有料職業紹介の対象外と判断される可能性があります。
肩書きや職種名だけで判断せず、実際に行う業務内容を具体的に洗い出したうえで、制度との整合性を確認することが必要です。
業務内容を求人票でどう表現するか
求人票の記載内容も、判断に影響を与える重要な要素です。
表現が曖昧だったり、実態と異なる記載があると、制度上の誤解や後々のトラブルにつながる恐れがあります。
業務内容については、現場作業を行わないことが明確に伝わるよう、実態に即した表現を心がける必要があります。
不安な場合に相談すべき窓口
制度の解釈や適法性について判断に迷う場合は、自己判断で進めず、専門的な窓口に相談することが現実的です。
有料職業紹介制度を管轄する団体や、建設業界に関わる専門機関に相談することで、リスクを抑えた判断がしやすくなります。
特に、初めて人材紹介を利用する場合や、業務内容の線引きが難しい場合には、事前相談を行うことをおすすめします。
まとめ
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建設業における人材紹介は、「業界だから禁止」なのではなく、「業務内容によって制限されている」という点が重要です。
制度の背景と例外を正しく理解し、自社の採用目的に合った手段を選ぶことが、リスクを避けながら人材確保を進める鍵となります。