人材紹介業を始めるには資格が必要なのでしょうか。
結論から言えば、従業員として働く場合は特別な資格は不要ですが、事業として開業する場合は厚生労働大臣による許認可が必須です。
この記事では、人材紹介業に必要な資格について、必須となる許認可の取得方法から、事業をより専門的に展開するための任意資格まで詳しく解説します。
特に中小企業の新卒採用を支援する立場から、実務に役立つ情報をお届けしますので、これから人材紹介業を始める方はぜひ参考にしてください。
人材紹介業に必須の資格とは?従業員と経営者で異なる要件

人材紹介業に必要な資格は、働く立場によって大きく異なります。
従業員として働くのか、それとも自ら事業を開業するのかによって、求められる要件が変わってくるのです。
ここでは、それぞれの立場で必要となる資格について解説します。
従業員として働く場合は特別な資格不要
人材紹介会社で従業員やコンサルタントとして働く場合、法律上必須となる資格はありません。
未経験からでも人材紹介業に携わることができ、実務を通じてスキルを磨いていくことが可能です。
ただし、キャリアコンサルタントなどの資格を持っていると、求職者からの信頼を得やすく、専門性の証明にもなります。
事業を開業する場合は許認可が必須
一方、自ら人材紹介業を開業して事業を運営する場合は、厚生労働大臣による「有料職業紹介事業」の許可が必須です。
この許可を得ずに営業すると、職業安定法違反となり罰則の対象となります。
許可制度が設けられているのは、求職者と求人企業の権利を保護し、労働市場の健全な発展を図るためです。
人材紹介業は人々のキャリアに深く関わる仕事であるため、事業者の質を担保することが社会的に求められています。
人材紹介業と人材派遣業の違い
人材紹介業では、求職者と紹介先企業が直接雇用契約を結びます。
紹介会社は求職者と雇用関係を結ばず、企業から紹介手数料を受け取るのみです。
求職者が就職した時点で紹介会社の役割は基本的に終了し、その後の雇用関係には関与しません。
これに対して人材派遣業では、派遣社員は派遣会社と雇用契約を結び、派遣会社から給与を受け取ります。
派遣先企業で働いている間も、雇用主は派遣会社のままです。
雇用関係の仕組みが根本的に異なるため、必要な許可も異なります。
人材紹介業を始める際は、この違いを明確に理解しておくことが重要です。
有料職業紹介事業の許可に必要な4つの要件
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人材紹介業の許可を得るには、法律で定められた要件をすべて満たす必要があります。
ここでは、許可取得に必要な4つの要件について詳しく解説します。
要件①職業紹介責任者の配置
事業所ごとに1名以上の職業紹介責任者を配置しなければなりません。
責任者は成年に達した後3年以上の職業経験を有し、かつ厚生労働省が指定する団体が実施する職業紹介責任者講習を受講している必要があります。
職業経験の内容は問われませんが、社会人としての基礎的な経験を積んでいることが求められます。
講習は申請日前5年以内に受講したものであることが条件です。
全国民営職業紹介事業協会や日本人材紹介事業協会などで講習を受けられます。
職業紹介責任者は名義貸しが禁止されており、実際にその事業所に在籍していることが求められます。
要件②財産的基礎
人材紹介業の安定した運営には、一定の資産が必要です。
具体的には以下の2つの条件を満たす必要があります。
| 項目 | 計算式 | 事業所1カ所の場合 |
| 純資産額 | 資産総額-負債総額 | 500万円以上 |
| 現金・預貯金 | 150万円+60万円×(事業所数-1) | 150万円以上 |
※繰延資産および営業権は資産総額から除きます
たとえば負債が500万円ある場合、資産が最低1,000万円必要となり、そのうち現金・預貯金が150万円以上なければなりません。
事業所を2カ所設ける場合は、純資産1,000万円以上、現金・預貯金210万円以上が必要です。
事業所を増やすごとに、純資産は500万円ずつ、現金・預貯金は60万円ずつ増額されます。
この財産要件により、事業の継続性と求職者への責任ある対応が担保されます。
申請時には、貸借対照表や預貯金の残高証明書などで財産状況を証明する必要があります。
要件③個人情報管理体制
人材紹介業では、求人企業の情報や求職者の個人情報を大量に扱います。
そのため、個人情報適正管理規程を定め、適切な管理措置を講じることが義務付けられています。
具体的には、個人情報を扱う責任者を明確にし、その責任の範囲を定める必要があります。
具体的には、以下の情報を規定に明記しておきましょう。
- 個人情報の紛失や改ざんを防止するための措置
- 不正アクセスを防ぐセキュリティシステムの構築
- 書類の保管方法
- データベースのアクセス権限設定
- パソコンのセキュリティ対策
要件④適切な事業所
事業所は、2017年の基準改正により、必ずしも20平方メートル以上の面積は不要となりましたが、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 個室の設置やパーティションで区切られた面談スペースを設け、求職者が他の求職者や求人企業と同室にならずに対応できること
- 予約制や近隣の貸部屋の確保により、プライバシーを保護しつつ対応できること
オンライン面談のみで対面を伴わない職業紹介を行う場合も、これらの要件を満たした事業所を持つ必要があります。
また、事業所の位置が適切であることも求められます。風俗営業などが集中する地域や、求職者が訪問しにくい場所は適切とは認められません。
職業紹介責任者講習の詳細と受講方法

職業紹介責任者講習は、人材紹介業の許可取得に必須の講習です。
ここでは、講習の具体的な内容や受講方法について解説します。
講習を実施している団体
職業紹介責任者講習は、全国民営職業紹介事業協会と日本人材紹介事業協会の2つの団体が実施しています。
講習は1日で完了し、職業安定法をはじめとする労働関係法令、職業紹介事業の適正な運営方法について学びます。
講習内容には、求職者への対応方法、個人情報の保護、適切な手数料の設定、事業報告書の作成方法などが含まれます。
講習の受講料
受講料は団体により異なり、全国民営職業紹介事業協会の場合、会員は8,800円、非会員は12,500円です。
講習修了後には受講証明書が発行され、許可申請時にこの証明書の写しを提出するため、受講証明書は失くさないよう大切に保管しておきましょう。
講習は各地で定期的に開催されており、最近ではオンライン形式で受講できる場合もあります。
各団体のウェブサイトで開催日程を確認できるため、早めに予約することをおすすめします。
講習の有効期間と受講タイミング
受講証明書の有効期間は5年間です。
許可申請時には、申請日前5年以内に受講した証明書が必要となります。
そのため、講習を受講してから5年以上経過してから申請する場合は、再度講習を受け直す必要があります。
許可申請を計画している場合は、申請予定時期から逆算して講習を受講しましょう。
許可申請の流れと必要な期間

人材紹介業の許可申請は、計画的に進めることが重要です。
申請から許可取得まで一定の期間が必要なため、事業開始予定日から逆算してスケジュールを組む必要があります。
ここでは、申請の全体的な流れと各段階で必要な期間について解説します。
申請から許可取得までの全体スケジュール
申請から許可取得までのタイムラインは以下の通りです。
| 段階 | 内容 | 所要期間 |
| ①準備 | 許可要件の確認 | 1日程度 |
| ②講習 | 職業紹介責任者講習の受講 | 1日 |
| ③書類準備 | 登記簿謄本など必要書類の取得 | 1週間程度 |
| ④申請書作成 | 許可申請書・事業計画書の作成 | 2〜3時間 |
| ⑤事前相談 | 労働局での書類確認 | 半日程度 |
| ⑥正式申請 | 申請書類の提出 | 半日程度 |
| ⑦現地調査 | 事業所の現地確認 | 申請から1週間後 |
| ⑧審査 | 厚生労働省による審査 | 約2ヶ月 |
| ⑨交付 | 許可証交付・事業開始 | 審査通過後 |
許可申請は、事業開始予定日の2〜3ヶ月前までに行う必要があります。
準備段階から免許取得まで、トータルで3ヶ月から3ヶ月半程度を見込んでおきましょう。
最近は許可申請件数が増加しており、審査期間が延びる可能性もあるため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
申請手続きの実際の流れ
まず、許可要件を満たしているか確認します。
次に職業紹介責任者講習を受講し、受講証明書を取得します。
並行して、定款や登記簿謄本、財産に関する書類などの必要書類を準備しておきましょう。
法人を設立する場合は、定款に「職業紹介事業」を事業目的として明記しておく必要があります。
書類が揃ったら、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局で事前相談を行います。
事前相談で問題がなければ、正式に申請書類を提出します。
提出後、労働局の担当者による事業所の現地調査が行われます。
その後、都道府県労働局を経由して厚生労働省で約2ヶ月の審査が行われ、問題がなければ許可証が交付されます。
許可の有効期間と更新手続き
新規取得時の許可の有効期間は3年間です。
更新後は5年間となります。
有効期間満了の3ヶ月前までに更新申請を行う必要があるため、期限管理を忘れないようにしましょう。
更新申請には18,000円の収入印紙が必要です。
更新を怠ると無許可営業となってしまうため、社内で確実に管理する体制を整えておくことが重要です。
許可申請に必要な書類と費用

許可申請には多くの書類と費用が必要です。
ここでは、必要な書類と費用について詳しく解説します。
提出が必要な書類一覧
許可申請には多くの書類が必要です。有料職業紹介事業許可申請書、有料職業紹介事業計画書、職業紹介事業取扱職種範囲等届出書などの申請書類を3部ずつ準備します。
添付書類としては、定款または寄附行為、法人の登記簿謄本、代表者や役員の住民票と履歴書、職業紹介責任者の住民票と履歴書、職業紹介責任者講習受講証明書の写しが必要です。
財産関係では、最近事業年度の貸借対照表と損益計算書、株主資本等変動計算書、法人税の納税申告書の写し、納税証明書、預貯金の残高証明書などを準備します。
その他、個人情報適正管理規程、業務運営に関する規程、手数料表、事業所の使用権を証明する書類、事業所のレイアウト図なども必要です。
事業所が賃貸物件の場合は、賃貸借契約書の写しを提出します。
書類は正本1部と副本2部を提出するものが多いため、早めに準備を始めましょう。
書類の不備があると審査が遅れるため、労働局の窓口で事前確認を受けることをおすすめします。
申請にかかる費用の内訳
許可申請には以下の費用が必要です。
登録免許税として9万円、収入印紙代として5万円がかかります。
事業所が2カ所目以降は、1カ所につき18,000円の収入印紙代が追加されます。
職業紹介責任者講習の受講料は、全国民営職業紹介事業協会の会員で8,800円、非会員で12,500円です。
協会の年会費は15,000円程度なので、今後の情報収集や研修参加を考えると、会員になることも検討した方がよいでしょう。
また、登記簿謄本や住民票などの各種証明書の発行手数料として、数千円程度が必要です。
登記簿謄本は1通600円、住民票は1通300円程度になります。
必要な書類の数が多いため、合計で5,000円から10,000円程度を見込んでおきましょう。
社会保険労務士に申請手続きの代行を依頼する場合は、10万円から15万円程度の報酬が別途かかります。
なお、人材紹介業の許可申請代行は社会保険労務士の独占業務となっており、行政書士には依頼できません。
自分で申請する場合、事業所1カ所での最低限必要な費用は約15万円程度となります。
人材紹介業に役立つ任意の資格

必須の許認可に加えて、専門性を高める資格を取得することで、求職者や求人企業からの信頼を得やすくなります。
ここでは、人材紹介業に役立つ代表的な資格について、取得方法や活用方法を解説します。
キャリアコンサルタント(国家資格)
2016年に国家資格化されたキャリア支援の専門資格です。
職業選択や能力開発に関する相談・助言を行う専門家として認定されます。
学科試験と実技試験に合格する必要があり、実技試験ではロールプレイと口頭試問が行われます。
受験費用は合計で38,800円、合格率は学科が60%前後、実技が50%前後です。
実務経験がなくても、厚生労働大臣が認定する講習を修了すれば受験できます。
キャリア相談に関する体系的な知識とスキルを証明できるため、求職者からの信頼を得やすくなります。
キャリアコンサルティング技能士(国家資格)
キャリアコンサルタントの上位資格で、2級と1級があります。
2級は3年以上、1級は6年以上の実務経験が必要となるため、より専門的な知識とスキルが求められます。
実務経験には、キャリアコンサルタントとしての相談業務や、職業紹介事業での求職者支援などが含まれます。
受験費用は学科試験8,900円、実技試験29,900円の合計38,800円です。
2級の合格率は学科が57%程度、実技が18%程度と、実技試験の難易度が高くなっています。
1級はさらに難易度が高く、学科が60%程度、実技が10%程度の合格率です。
実務経験を積み上げ、よりスキルアップを図りたい方におすすめの資格です。
資格取得を通じて、キャリア支援の高度な技法を習得でき、複雑なケースにも対応できる力が身につきます。
職業紹介士(民紹協認定)
全国民営職業紹介事業協会が認定する職業紹介の専門家資格です。
職業紹介責任者として1年以上の経験、または職業紹介従事者として3年以上の経験が受験資格となります。
通信教育と集合研修を受講した後、学科試験と実技試験に合格する必要があります。
受験費用は会員が62,000円、非会員が81,000円です。研修では、職業紹介の実務に必要な知識やスキルを体系的に学べます。
職業紹介事業に特化した高度な専門知識と実務能力、職業倫理を習得できるため、事業の質を高められます。
社会保険労務士(国家資格)
労働関係法令や社会保険の専門家です。
労働基準法、雇用保険法、健康保険法、国民年金法などの科目から出題されます。
受験費用は15,000円、合格率は5〜10%程度の難関資格です。
試験科目が多く、学習範囲も広いため、合格までに1年から2年程度の学習期間が必要とされています。
しかし、労務に関する深い知識が身につくため、求職者へのアドバイスや求人企業の労務課題に対する提案に活かせます。
個人情報保護士
個人情報の適正管理に関する専門資格です。
試験費用は11,000円、合格率は約37%で、年4回実施されています。
オンライン受験も可能なため、自宅や事務所で受験できます。
人材紹介業では膨大な個人情報を扱うため、この資格を持つことで情報管理体制の信頼性を示せます。
個人情報保護法の理解や、情報セキュリティの知識が求められる現代において、この資格は事業者としての信頼性を高める有効な手段です。
まとめ

人材紹介業を開業するには、有料職業紹介事業の許可が必須です。
職業紹介責任者の配置、財産要件、個人情報管理体制、適切な事業所という4つの要件を満たし、申請から約2〜3ヶ月で許可を取得できます。
必要な費用は最低でも15万円程度となり、事業所の整備費用なども含めると、開業には一定の資金が必要です。
従業員として働く場合は特別な資格は不要ですが、キャリアコンサルタントや職業紹介士などの任意資格を取得することで、専門性を証明し、求職者や求人企業からの信頼を高められます。
資格は事業の差別化にもつながり、専門性の高いサービスを提供する根拠となるため、ぜひ取得を目指して頑張って下さい。